「これを見ろ」とか言って、そいつがボタンを押すと、秘密基地の３階建てぐらいある壁のカーテンが開き、レールに吊るされて、ビキニ姿で凍結した美女を閉じこめたカプセルがずら〜っと現われる。その壮観なこと！ ものすごくときめいたのを覚えている。
じゃあ、それが僕の凍結原体験かというと、そうでもない。思い出すと、中学の頃から、女の子がカプセルの中で冷凍になってるイラストや、彫像にされているイラストなんかを、親に隠れて(^^;)こっそり描いていた。それで『殺しのビジネス』にもビビッときたのである。（ちなみに女ターザンを描きはじめたのも中学の頃から……なんと30年越しのシュミだよ！）じゃあ何がきっかけかというと、自分でもよく分からない。気がつくと、凍結や石化が好きになっていたのだ。
とは言っても、凍結や石化なら何でもいいってわけじゃない。
20歳ぐらいの時、『土曜ワイド劇場』で、「氷柱の美女」というドラマをやった。天知茂主演の明智小五郎シリーズの第１作で、ある青年が復讐のため（だったと思うが、細かいことは忘れた）に、女とその幼い息子を裸にして氷柱に閉じこめて殺そうと企む話である。けっこう期待して見たんだけど……。
ダメでした。
そもそも「氷柱の美女」にされるのが三ツ矢歌子。このキャスティングがまずダメ。当時はホームドラマのお母さん役ばかりやってた人で、とてもじゃないけどサイコキラーの標的にされるようなタイプじゃない。どう考えても凍結が似合わない女優である。
ラスト近くでようやく「氷柱の美女」が出てくるんだけど、これがまたすごく安っぽい。どう見てもアクリルの箱にマネキン人形入れただけ。かなり遠くから見ても人形だと分かる。もっとしっかり造ってよ、美術さん。
しかも、しかもである。犯人が成功を喜んでいると、明智探偵が現われ、女とその息子が冷凍にされる前に助け出し、人形とすり替えておいたのだと説明する（明智という男はちょくちょくこういう意味不明の行動をする）。
「よく見たまえ、それは人形だ！」
よく見なくても人形だよ！
というわけで、今でも僕の頭の中では、「最高は『殺しのビジネス』、最低は『氷柱の美女』」というランキングになっている。
そう、石化・凍結にも美学が――こだわりが必要なのだ。
プロになってからも、僕はこのシュミを有効に活用させてもらっている。僕のファンの方なら、僕の作品の中に、よく女の子が石になったり凍りついたり人形になったりするシーンが出てくるのに気づかれるはずだ。古くはゲームブック『デーモンズ・シティ』にヒロインの石化シーンが出てくるし、『モンスターの逆襲』に登場するドラゴンのプリンセスは氷の中に閉じこめられている。美葉は２巻で冷凍になったし、地獄博士は女の子を小さな人形に変えた。湧は冷凍ミイラに凍らされかけたし、霧香は天使に氷漬けにされたうえでとどめを刺された……。
とりわけ自分でも気に入ってるのは、『パラケルススの魔剣』のクライマックスでモーガンがオリハルコンの彫像に変えられるシーン（これをやりたくて、最初の方からちゃんと伏線を張っていたのだ！）と、『戦慄のミレニアム』で摩耶が天使によってガラスの彫像にされるシーンである。
ちなみに、『ソード・ワールドＲＰＧ』では、僕はモンスターのデータの一部と、毒薬のデータのほとんどを担当した。メデューサ、コカトリス、バジリスク、冷凍光線を発射するバクベアードは僕のデザイン。石化毒の「メデューサ・アイズ」、硬直毒の「ホワイト・マーブル」、女だけを小さな人形に変える「リビング・ドール」なども、僕のシュミの産物である。あっ、８レベル精霊魔法の「アイス・コフィン」も僕のアイデア。上級ルールを作る時に、清松みゆきに「これを入れろ」ってゴリ押ししたんだっけ（^^;）。
長いこと、僕はこんなシュミを持っている人間はそんなに多くないんじゃないかと思っていた。
そうじゃないと分かったのは、つい最近になってからだ。２０００年の夏頃、『戦慄のミレニアム』のネットでの評判を確かめようと、インフォシークで検索してみたら、たまたま「マダ様の彫像保存冷凍庫」にぶち当たったのだ。凍結＆石化フェチのためのサイトである。
いやー、感激しましたね。僕と同じシュミの人がこんなにいるなんて！
とりわけ感心したのはデータベース。古今東西のマンガ・小説・映画・ゲームなどの中から、石化や凍結のシーンが何百もリストアップしてあるのだ。『戦慄のミレニアム』もそれに入っていたので、検索にひっかかったのである。
もっとも、同じ凍結フェチとはいっても、アンケート・コーナーを見ると、人によってちょっとずつ好みが違うのが面白い。裸で凍結するのがいいという人もいれば、水着姿で凍結したいという人、体操服やメイド服がいいという人もいる。お嬢様タイプを凍結してみたいかと、逆に元気な女の子を凍結してみたいとか、その方法にしても、氷漬け、金属、クリスタル、大理石、マネキンなど、人によって好みがいろいろだ。
ちなみに僕の場合、固める方法にはこだわらないが、「あくまで殺さずに仮死状態にする」という点にこだわっている。冷凍にせよ石化にせよ、生き返れる可能性がないとダメなのだ（だから「マンドレイクの館」に出てくる美少女の剥製や、『ソード・ワールドＲＰＧアドベンチャー』のイーヴィルの石化なんかは、本当はあんまり良くないのだ）。
あと、固め系のヴァリエーションとして、縮小系（女の子を小さくする）もけっこう好きで、これまた何度もネタに使っている。
いったい凍結や石化のどこが面白いのか？
言うまでもなく、女の子の動きを封じるという行為は、ＳＭで言うところの「拘束」の一種である。裸で凍結すれば恥辱プレイの要素も加わる。
じゃあ、お前はサドなのか、と思われるかもしれない。そうではない。自分でも不思議なことだが、僕は昔からＳＭがまったくダメな人なのである。縛ったりムチで打ったりロウを垂らしたりなんてことは、現実に行なうことはもちろん、フィクションの中で読んだり書いたりするのも嫌なのだ。その昔、高千穂遥の短編｢変態の方程式」（宇宙船に密航した少女をさんざんいたぶった末に宇宙に放り出して殺してしまうという話）を読んで、あまりの不快さに、「何というひどい話を書くんだ！」と、丸一日腹が立ち続けたもんである。
ならどうして石化や冷凍や縮小はＯＫなのか？
自分の心理を分析してみると、僕は根っからＳＦ好きな人間なので、女の子をいたぶる方法も現実に存在しない方法でなくてはならないらしいのだ。
言うまでもないことだが、冷凍や石化は現実にはできない。まあ冷凍するだけなら大型の冷凍庫があれば可能だが、ものすごく大変だろうし、犠牲者は確実に死んでしまう。現在の科学技術では、人間を生きたまま冷凍保存することは困難である。石化や縮小にいたっては、物理的に絶対不可能である。
だから石化・凍結フェチというのは、あくまでフィクションの中だけのシュミなんである。現実と空想の区別がつかなくなって犯罪に走るなんてことは、物理的にありえないのだ。なんと健全なシュミであることか（笑）。
もうひとつ、凍結や石化には、女性の美を永遠に保存するというロマンがある。現実の女性は年を取り、容色はしだいに衰え、死んでゆく。美しい姿のまま時を止め、生かし続けることができるなら……。
だが、エントロピーの法則には何者も逆らえない。すべての生命はいつかは死に、すべての美はいつかは滅びる定めなのだ。
そう、時を止めることは不可能だ。不可能だからこそ夢であり、ロマンなのである。
