カッタ君物語
監督/吉田憲二 製作/宇部市
1994年
東映ビデオ/2800円+税

 宇部市の常盤公園で飼われている「カッタ君」というモモイロペリカンのお話。
 このカッタ君、市内の幼稚園に何度も飛来して、子供たちのアイドルになり、ニュースでも報じられて地元で大人気。その人気に便乗した宇部市が、市の予算を使って製作したのがこのアニメだ。映画の冒頭には、いろんな団体からの推薦が、ずらっと並んでいる。

全国子ども会連合会
全国市長会
日本青年会議所
全国保育協議会
日本動物園水族館協会
日本鳥類保護連盟
日本PTA全国協議会
青少年映画審議会
山口県市長会
山口県町村会
山口県観光連盟
山口県

 ……あの〜、みなさん、ちゃんと内容を見て推薦しましたか?
 もしかして「感動の実話のアニメ化」というのに騙されて、内容も確認せずに推薦したんじゃありませんか?

 確かに最初のうちは、実在の人物も登場して、淡々と話が進む。はっきり言って、かったるい。しかし、翔君という男の子がカッタ君の友達になってから、話がヘンな方向に展開しはじめる。
 道を歩いていて、突然、遠く離れたカッタ君からの助けを求めるテレパシーをキャッチする翔君(このシーンのリアクションがやたらに大げさでヘン)。駆けつけてみると、森でカッタ君がドラネコたちに囲まれていた。翔君は棒を振り回し、ネコをどつき回して追い払う!
 おいおい、ペリカンは保護するけど、ネコは虐待していいのか?
 すっかり翔君と仲良くなったカッタ君。いっしょに幼稚園に通い、運動会の二人三脚に出場して(いいのか?)、一等になったりする。
 しかし、このへんはまた序の口だった。
 映画が30分過ぎたあたりで、突如、湾岸戦争が勃発! 仕事でアラビアに出張していた翔君の両親も危険にさらされる。両親が心配でならない翔君、何を思ったか夜中に公園にやってきてカッタ君に泣きつき、「お願い、アラビアまで僕を連れて行って」と無茶な要求をする。

「僕、宇部の空港にも行ったんだ、でも外国に行く飛行機は飛んでないって」

 当たり前じゃ〜っ(笑)! これだからガキはしょうがない。
 その時、月から変な光が放射されたかと思うと、翔君はカッタ君に乗って空を飛んでいた。カッタ君もなぜか喋れるようになっている。そのまま二人はアラビアへワープする。
 ……これ、実話じゃなかったんですか?
 アラビア(情勢からするとクウェートだと思うのだが、なぜか「アラビア」としか言わない)の砂漠で両親と再会する翔君。息子が喋るペリカンに乗ってきたというのに、両親はたいして驚いてる様子がない。
 避難民を救うため、カッタ君と翔君はペリカンの国に行って、ペリカンの長老(声・大滝秀治)に助けを求める。カッタ君の真剣な訴えに、「満月の夜に祈れば願いが叶う」と言う長老。
 その夜、満月の光の下で長老が叫ぶと、飛び立った数百羽のペリカンが合体、翼長数十メートルの巨大ペリカンになった!
 戦場に飛来した巨大ペリカンは大活躍。
 口からビームを吐いて戦車をぶっ壊す!
 翼で風を起こして戦車をひっくり返す!
 ビームの掃射でミサイル部隊を壊滅!
 巨体の上に避難民を乗せて無事救助!

 冗談みたいに思えるかもしれないけど、みんな実際にあるシーンである。攻撃を受けている側は「敵」としか呼ばれないんだけど、これってやっぱりイラク軍だよねえ?
 ここまでやりゃあ、「こりゃ夢オチだな」と思うのが当然だろう。実際、日本に帰ってきた翔君は、カッタ君といっしょに公園で眠っているところを大人たちに発見される。ああ、やっぱり夢か……。
 と思いきや、避難民の無事救出を報じるテレビのニュースには、空を飛ぶ巨大ペリカンのシルエットがはっきり映っている!
 夢じゃなかったんだ!
 他にも、カッタ君がペリーナというペリカンの女の子(声・西村知美)といい仲になるシーンもある。このペリーナちゃん、顔の上半分のデザインだけ見るとかわいいんだけど、やっぱり口がペリカンなの。ううう、ネコ耳やウサ耳はいいけど、ペリカン口の美少女はやだよう。
 まあ、実話を忠実に描いたって退屈になるだけだから、中盤でアクション・シーンや感動的なシーンを入れて、盛り上げたかったんだろう。それは分かる。
 でも、口からビームを出す巨大ペリカンってのは、どこから出た発想なんだ?
 誰か止める奴いなかったのか?

 追記:
 1985年生まれの本物のカッタ君、2003年10月現在、まだ生きているらしい。ペリカンって意外に寿命が長いんだね。
 地元では今も有名らしく、「カッタ君」「カッタくん」で検索すると数百件ヒットする。

 追記:
 カッタ君は2008年7月16日に死亡したそうである。23歳。「人間で言うと40歳前後」だったという。
http://yamaguchi.keizai.biz/headline/411/