時空戦士　魅鬼
　監督　松山仁
　1996年／ビームエンターテインメント

　不思議なことにこの映画（オリジナルビデオ）、特撮ファンの友人に訊ねてもみんな「知らない」と言う。僕も存在を知らなかった。たまたま1998年の深夜に毎日放送で放映されたので録画したのである。
　新聞のＴＶ欄には「主演　横山智佐」と書いてあったんで、てっきりアニメだと思ったら、実写であった。声優・横山智佐の（たぶん唯一の）主演映画である。
　冒頭、しょぼいＣＧの星空をバックに、

　てな感じで、字幕が手前から奥へ流れる。『スター・ウォーズ』ブームの真っ最中ならともかく、96年の作品である。このアナクロなセンスで、まず腰が砕ける。
　それが終わると、いきなり横山智佐と吹越満がベッドで抱き合っている。誰が考えたんだろ、こんなキャスティング。胸はしっかりシーツでガードしてるんで、観客サービスにもならない。
　横山智佐は銀河を股にかける腕利きの異星物ハンター（「異生物」の誤植かと思ったら、「異星物」で正しいらしい。うーん）。さすがに声はいいんだけど、動きはまるでダメ。回想で戦闘シーンが出てくるんだけど、レーザーが飛び交う中で、よけもせず、ぼーっと突っ立っている。
　敵の撃ったレーザーが彼女の肩のプロテクターに当たってはじかれ、敵の兵士は「どうなってるんだ!?」と狼狽する。顔を狙わんか、顔を（笑）。
　どうでもいいけど、時代設定は２０２０年なのに、惑星連邦なんてのができてて、人類が太陽系外にコロニー作ってるってのは、いくらなんでも無茶だと思う。しかも、どの惑星にも日本人しかいない。
　他にも、キューティー鈴木、尾崎魔弓、福岡晶ら、女子プロレスラーの方々が異星物ハンター役（なぜか異星物ハンターって女しかいないらしい）で出演している。へっぴり腰で銃を構え、エイリアンが目の前まで来てるのに、びびってトリガーを引こうとしない。あげくに格闘戦にもつれこみ、着ぐるみのエイリアンに関節技かけたりする。
　長いことＳＦファンやってきたけど、エイリアンに関節技かける女は初めて見たぞ。
　他にも「ぐるぐるパーンチ」と言いながら巨大怪獣を殴る奴、自分しかいないのに「あぶない！」と叫んで攻撃をかわす奴もいる。『シュシュトリアン』にも遠く及ばない、とてつもなく緊迫感に欠ける戦闘シーンの連続である。
　ちなみに女子プロレスラーのみなさん、演技に難があったらしく、声が吹き替えられているのが微笑ましい。
　あと、高千穂遥と林家こぶ平がチョイ役で「友情出演」している。いったいどんな友情なんでしょうか。
　クライマックスは伝説の宇宙蝶との対決。モスラみたいなやつなんだけど、大きさは１ｍほど。一直線にゆっくりと飛んでくる。横山智佐演じる魅鬼は、火の玉を発射する武器をそいつに向かって何十発も撃ちまくるのだが……一発も当たらない（笑）。本当に腕利きなのか？
　これでも監督はシリアスなＳＦ映画を作ってるつもりらしい。「らしい」というのは、ストーリーが支離滅裂でよく理解できないからである。「チャクラパワー全開」「千手千顔観自在菩薩」なんて台詞が瀕出するので、宗教団体の宣伝映画みたいにも思える。
　いちおうＳＦＸやＣＧも使ってるが、かなり安っぽい。そこらのオフィスビルの前でロケして「惑星○○」だと言い張る。全体の雰囲気としては、新春かくし芸大会版『ゼイラム』って感じである。
　ラストは、横山智佐がカメラに向かって「ジ・エンド」と言って微笑む。最後の最後まで腰砕け。

　それにしてもいったい誰が「横山智佐主演でＳＦ映画を作ろう」と思ったのだろうか。誰か教えて！

【追加情報】
　その後、この作品のビデオを中古ビデオ屋で入手できたので、ご紹介したい。
　パッケージ裏の解説によると、

『極道忍者ドス竜』『BATTLE GIRL』などの数々のＳＦＸムービーを製作してきた“和製ロジャー・コーマン”こと松山仁監督のもと、視覚効果に『仮面ライダー』シリーズの杉木信章と『スーパー戦隊』シリーズの長部恭平、特殊造形に『心霊』の香西伸介、デジタルエフェクトに『ガメラ２』の寺本年範が結集。架空の惑星が舞台となった全編を、究極のデジタルエフェクトが圧倒的な迫力で埋めつくす。

　ごめんなさい、１人も知りません(^^;)。
　そーか、あの噂の『ドス竜』（見てないけど）作った人だったのか。でも「和製ロジャー・コーマン」って、誉め言葉なの？
「架空の惑星が舞台となった全編を、究極のデジタルエフェクトが圧倒的な迫力で埋めつくす」と言われましても、本編の大半は、どこかの砂丘かどこかの山の中でロケしてるだけなんだけど。
　あと、書き忘れてたけど、この映画には横山智佐の他に、松井菜桜子がちょっとだけ顔出してるのと、水谷優子と折笠愛が声優として出演している。これも、パッケージ裏の解説によれば「４大人気声優の夢の共演」なのだそうな。これぐらいのメンツだったら、ＴＶアニメでもしょっちゅう共演してるような気がするがなあ……。
　さらに漫画家のはぬまあんさんから驚くべき情報。なんとこのビデオには、オマケとして魅鬼フィギュアがついていたのだそうだ。はぬまさんの近所のおもちゃ屋で８００円で売られていたというので、頼んでゲットしていただいた。
　これがそれである。
　高さは２０cm。ご覧の通り、パーツの配置は合っているのだが、アニメ的なディフォルメがされていて、顔もプロポーションもまるで違うため、別物に見える。直立不動のポーズで、可動するのは首だけ。見事なまでに花のないフィギュアである。こんなの欲しがるもの好きは、僕ぐらいのもんだろうなあ。
　はぬまさんは「言われないと横山智佐っつーより、メディコム製イリアのフィギュア（ゼイラム THE ANIMATION版）の韓国パチモンみたいです（笑）」と評しておられるが、作品自体が『ゼイラム』のパチモンだから、コンセプトは正しいと思うぞ（笑）。
　さらに、はぬまさんいわく。

　実は９４年頃、かのビデオ安売王が、女子プロレスラー主演で、ゼイラムのパチモンみたいなシリーズを製作したことがあるらしいです。（当然、販売のみ）わしは「魅鬼」自体は未見ですが、あるいは「魅鬼」とは、これらセルビデオの映像に、横山智佐の新撮映像を継ぎ足して作った作品という可能性があるかもしれません。

　なるほど！　「和製ロジャー・コーマン」なら、その可能性は充分あるぞ。言われてみると、女子プロレスラーの登場シーンが、本編とまったくつながっていないのである。
　というわけで、調べれば調べるほど、『魅鬼』が素晴らしいまでに情けない作品であることが明らかになってきた。世につまらないＳＦ映画は数多いが、ここまで情けなかったら、立派に歴史に残す価値はあると思うのだ。

【さらに追加情報】
　ビデオ安売王で売っていたという「女子プロレスラー主演で、ゼイラムのパチモンみたいなシリーズ」について、高藤史憲さんから実物を送っていただきました。

『MONSTER COMMANDO Y』主演：キューティー鈴木
『MONSTER COMMANDO H』主演：福岡晶
『MONSTER COMMANDO M』主演：尾崎魔弓

　いずれも監督は松山仁。定価は税込み９８０円。さすが安売王。ちなみに３本とも林家こぶ平が「友情出演」している。だからどんな友情なんだってば!?
　見てみると案の定、『魅鬼』に使われたシーン（計11分）は、この３本のビデオからの流用であった。モンスターや宇宙船などのプロップの一部も流用されている。なるほど、確かに和製ロジャー・コーマンだわ（笑）。
　時代は「西暦２１０Ｘ年」だそうで、『魅鬼』の世界とリンクしてはいないようである。また、「１９９０年代から問題になっていた電磁波汚染の影響で遺伝子に異常が生じ、すべての女性から声帯を奪っていた」という設定で、彼女たちは首に装着したマシンを通して人工の声を出す。なるほど、これなら女子プロレスラーが声優の声で喋るのも納得できる……って、いやいや、無理あるってば（笑）。
　みなさん想像していただきたい。水谷優子の声で喋るキューティー鈴木、折笠愛の声で喋る福岡晶、松井菜桜子の声で喋る尾崎魔弓を。違和感ありすぎ！
　特撮もアクションもしょぼいし、ストーリーもツッコミどころがいろいろ。いやー、すげえわ。
　はぬまさん、そして高藤さん、ありがとうございます！

【さらにさらに追加情報】
　上で「ビデオにオマケとして魅鬼フィギュアがついていた」と書いたが、実は僕の勘違い。星野瑠璃さんからメールで訂正があった。

ビデオソフトにフィギュアは付いてません。

フィギュアが付いていたのはCD-ROMの方です。
このCD-ROMには「初回限定」で「フィギュア」と「サントラCD」が付いてます。
理由は知りませんが、発売日を何度も延期し、やっと出たと思ったら全然売れず、新古品が今は無きディスクマップに溢れかえってました。（それを安く売らなかったディスクマップは、ほどなく潰れましたね）

サントラ欲しさに新品を予約して買った私って一体…。

　なんと『魅鬼』にはCD-ROMもあったのだ！（よく見たらビデオの最後にちゃんとCD-ROMのＣＭが入ってた。ごめん、見落とし！）
　星野さんから、そのCD-ROMとＬＤ（あったんだ、ＬＤも！）のパッケージ写真を送っていただいたので、紹介したい。　
　まずこれがCD-ROM。発売はビデオと同じ、ビームエンターテインメント。裏の解説によると、

横山智佐主演ＳＦＸアクションムービー『時空戦士 魅鬼』の全貌を解き明かす究極の完全データファイル。

■６人の美少女戦士が『時空戦士 魅鬼』の謎を完全解明

　待て待て、｢美」はまだ許してやるが、「少女」じゃないだろ、お前ら!?（笑）
　内容は、ピクチャーレーベル仕様のデータベースCD-ROM、オリジナル・サウンドラックＣＤ、それに例のフィギュアの３点。

COMPLETE FILEだけのお楽しみ。映像化されなかったストーリーを横山智佐本人のナレーションで新たに収録！

　なのだそうな。
　ごめんなさい、これに7800円出す価値があるのかどうか、ファンでない僕にはイマイチよく分かりません……。

　次にＬＤ。
　おお、すごい！　ビデオとＬＤとCD-ROMで、使ってるスチールがみんな違うんだ!?
　ちなみに「智佐ファン必見チャプター」「バトルチャプター」「デジタル合成チャプター」なんてのも付いてる、ファン向けの親切仕様（なのか？）。
　お値段の方は、ＬＤが7800円、ビデオが6800円（ただし僕の買った中古価格は2500円）。

　というわけで、みなさんのご協力により､『魅鬼』に関する情報がますます完全なものになりました。（もしかして、日本で一番濃い『魅鬼』ページか、ここは？）
　星野瑠璃さん、ありがとうございます！