ネットバイオレンス〜名も知らぬ人々からの暴力〜
　　　　　　　　　　　脚本・野沢尚　演出・六山浩一
　　　　　　　　　　　2000年11月11日、ＮＨＫで放映

　２０００年度の芸術祭参加番組。
　離婚後、雑誌社のライターをしながら息子を育てている阿南亮子（夏川結衣）は、インターネット上のシングルズのための会議室で、匿名の人々から誹謗中傷を受ける。腹を立てた彼女は、顔の見えない相手を何とか探し出そうとする……というストーリー。
　まあ、僕もネットで中傷された経験があるので、ヒロインの憤りは理解できないでもない。しかし、見ているうちに、テーマのはずの「ネット・バイオレンス」よりも、ヒロインの奇怪な行動の方が気になってきた。
　まず、「大阪ヨーコ」という相手のハンドルネームだけを手がかりに、はるばる東京から大阪へ探しにやって来る。広い大阪府下から、たった数日で、顔も本名も分からない相手を探し出す気でいるのだ。
　これだけでもかなり変だが、まっ昼間から道頓堀の橋の手すりにノートパソコンを置き、掲示板に書きこみをはじめるのだ。今にもパソコンを川に落っことしそうで、見ていてひやひやする。
　いくつかの発言をヒントに、相手の出身高校の見当をつけた亮子は、学校関係者を騙して（おいおい）卒業生名簿を閲覧する。しかし、バトル相手が自分の身元を明かすような情報をホイホイ教えるはずがないではないか。案の定、探し当てた「ヨーコ」さんはまったくの別人。
　その後、今度は本命と思われる男を見つけ出すのだが、そいつの家の周囲をうろついたり、自転車で走る男を全力疾走で追いかけたり、勤め先まで尾行したり……その行動はまさしく「ストーカー」そのものだ。
　男に会って話した後、どうしても他のメンバーの顔も見たくなった亮子は、その夜、掲示板で呼びかける。

「オフ会の通知です。明日の正午、神戸のメリケン波止場で会いませんか」

　しかし、相手は日本中に散らばっているのだ。前日の深夜、いきなり「明日の正午、神戸で」と言われて、何人来ると思っているのか（当然、現われたのは一人だけ）。トンデモない自己チュー女である。
　しかも亮子は、「ママのすること見ててほしいの」と言って、わざわざ息子を神戸に呼び寄せているのだ。そんなわけの分からん理由で、まだ保育園に通っている幼い子供を、東京から神戸まで新幹線で一人旅させたのか!?　お前は母親失格だ！
　ドラマはここで終わるのだが、あの後、彼女は前よりいっそう激しい非難を浴びせられたのではないかと思われる｡